日本OR学会の中に「都市のOR」研究部会(主査:腰塚武志,幹事:大澤義明(筑波大学))が発足したのが1997年であり.この年,OR学会の春季研究発表会で都市に関係した研究発表の件数が初めて10件に到達した.この研究部会は2000年の春まで続き,その後研究グループとして学会に残り,名称は変化しているものの今日まで続いている.そしてこの2000年11月末,南山大学にて鈴木敦夫先生を中心に「都市のORワークショップ」が始まり,翌2001年8月,筑波大学にて大澤義明先生を中心に「都市のORサマーセミナー」が開始された.例外はあるものの,年末に南山大学,夏に筑波大学,での研究集会は毎年開催され,すでに20回以上も回を重ねている.
南山大学では何年かに一度は国際ワークショップとして開催され,そうでないときにも海外の研究者をゲストとして呼ぶことが多い.筑波大学では国内の著名な研究者の特別講演会が組み込まれることが多いが,両大学の研究会に共通しているのは,学部生や院生に積極的に発表を奨励していることである.学会発表するほどの成果がまとまっていない段階でも発表を勧めてきたのは,若手研究者を育てるという意図もあり,初期のころの院生がその後何人も研究者となって,現在ではこの研究グループを支えている.加えて若手研究者に特化したスプリングセミナーも鳥海重喜先生を中心に2004年春から中央大学にて開催され今日に至っている.
これらの研究会を通して得られた成果はこのホームページからも参照できるので,個々の研究については紹介しない.ただ最近の最も顕著な結果は田口 東先生(中央大学)によるオリンピック開催時の首都圏の電車の混雑を予測したものである.これに関しては今から4年以上も前からマスコミの話題となり,TVのいくつもの番組で報道されたが,これには国内だけでなくフランス国鉄の関係者も興味をしめし,危機管理の会議で田口先生がオンライン講演をしたことも特筆に値する.しかし理論的基礎に時空間ネットワークがあることはあまり報道されず,しかも実際のオリンピック開催が無観客となり,予測が実証されなかったことは甚だ残念な結末だった.
だからと言って時空間ネットワークによる予測や分析の価値はいささかも落ちることはなく,これを全国津々浦々ではじくことは日本における現実の交通体系にとって極めて重要なことである.大規模ネットワークにおける均衡解の算出には名人芸が必要とは思われるが,是非普及の道も考えてもらいたい.
ところで「都市のOR」とはなんだろうか.多くの人はORで開発された数々の手法を都市に応用する分野と考えているかもしれない.もちろんそれも含まれるには違いないが,ORの手法はもともと自然科学の対象物ではないものに科学的方法でアプローチをして生み出されてきたものである.都市の様々な局面を虚心坦懐にみることによって新しい方法の契機が生み出され,それを研究会での議論や共同研究を経て新しい分野として発展させることこそ,この研究会に課せられた重要な使命だと私は思っている.
2021年11月 筑波大学名誉教授 腰塚武志